難解な理論

マイナーコンバージョン(MC)とリディアンクロマティックコンセプト(LCC)は比較的新しいジャズ理論とされており、MCはギタリストのパットマルティーノ、LCCはピアニストのジョージラッセルが提唱したものです。ここではそれぞれの理論の特徴と実際の運用方法について解説してみます。スケールの一覧表をpdfで配布していますので、ご自由にダウンロードして下さい。

マイナーコンバージョン

パットマルティーノは二度の脳梗塞の末にも見事に現場復帰を果した、現在でもジャズギター界を牽引する重要なギタリストの一人です。日本にも造詣が深く(奥様は日本人)、その他曼荼羅など、インド哲学などにも傾倒していた時期があり、その演奏は明らかに他のギタリストとは一線を画すものとなっています。1弦(E)に.016という極太の弦が張られたAbe Rivera(エイブリベラ)氏特注のギターを大理石のピックで奏でると、細身の身体からは考えられないほどパワフルで暖かい音がします(私は以前ジャズギターを弾いていたので、話し始めるとキリがありませんのでこの辺で)。

彼の弾くフレーズはデビュー当初から特徴があったのですが、後になってマイナーコンバージョンという、全てのスケールをマイナースケールに解釈する理論を提唱しました。やっと謎が解けたわけです。具体的には全てをドリアンスケールで解釈するというものなのですが、ギターという楽器特有の利点を生かした理論だと言えます。ギターは移調楽器と呼ばれ、同じ指の動きをスライドさせるだけであっという間に12キー全てで弾くことができます。つまりドリアンから構成されるフレーズを1つ覚えれば、それを少し変化させながら全てのコード上でも弾けることができることになります。

ドリアンの他にはメロディックマイナー(ジャズマイナー)もよく使われます。

メジャー系II-V-Iスケール
Dm7Dドリアン
G7Dドリアン
CM7Aドリアン
マイナー系II-V-Iスケール
Dm7b5Fジャズマイナー
G7Abジャズマイナー
Cm7Cドリアン

パットマルティーノは実際にはドリアンに沢山のクロマティック(半音)ノートを混ぜて弾いています。そしてその考えは次に説明するLCCとも大きく繋がっています。

リディアンクロマティックコンセプト

全てのスケールをリディアンを基準にして考えるという全く新しいジャズ理論を提唱したのがジョージラッセルです。この理論によると、モードスケールにおけるアヴォイドノート(特性音)が無くなり、より調性が安定するという哲学的な概念をも含んでいます。マイルスデイビスやビルエヴァンスなど、名だたるジャズの巨匠達が影響を受けたとされる理論なのですが、理解に困難を伴うため、一般的なジャズミュージシャンの間ではあまり普及しなかったという歴史があります。

私も学生の頃書籍で勉強してみたのですが、最初の数ページで睡魔に襲われたという感じです。しかし今改めて色々調べてみると、この理論の核になっている事は十分に利用できると考えたため、ここで簡単に解説します。

MCと同様にメジャー系のII-V-Iとマイナー系のII-V-Iに分けて考えた場合、基本は全てリディアンスケールとなります。

メジャー系II-V-Iスケール
Dm7Fリディアン
G7Fリディアン
CM7Cリディアン
マイナー系II-V-Iスケール
Dm7b5Abリディアン
G7Abリディアン
Cm7Ebリディアン

リディアンスケールがどんなスケールか分からない場合はモードを一通りご確認下さい。覚え方のコツは4度下のメジャースケールと同じ、という事です。FリディアンはCメジャースケールと全く同じ音となります。

因みにメジャー系のII-Vの場合、IIのルート音の短3度上のリディアン、マイナー系のII-Vの場合は増4度上のリディアンを適応できます。ただ実践的にはメジャー系はIIのドリアンスケール、マイナー系は半音上のメジャースケール(IIのロクリアンスケール)と考えても問題ありません。細かく解説はしませんが、弾いてみると理解できると思います。

メジャーコードにおける#4度がポイント

まとめになりますが、MCもLCCもトニックメジャーコード(この例ではCM7)上で弾くスケールはそれぞれAドリアンとCリディアン、ともにGメジャースケールから派生したモードで、両方ともF#を含んでいます。度数で考えればCメジャースケールの4度の音を半音上げた音階となります。通常のモードならCメジャースケールの4度の音はアヴォイドノートとなり、どちらかと言えば弾かない方がいい感じなのですが、この音を半音上げる事で全ての音を問題なく弾くことができます。個人的にはMCでもLCCでもIM7における#4度の音が何より重要だと考えています。

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