耳コピ

耳コピとは耳でコピーする、つまり譜面ではなく、音源を聴いてそれを採譜もしくは暗譜する作業です。英語でトランスクリプションと呼ばれます。特にジャズを学ぶ上で音符はもちろん大切ですが、耳でよく聴くことによってスイング感などを得ることも可能なので、練習としておすすめです。ただし、耳コピは簡単ではありません。基本的なコードやスケールの知識をつけた上で、ゆっくり時間をかけて行うようにしてください。

絶対音感は必要?

結論からいうと、相対音感があれば十分です。ちなみに絶対音感は、例えばピアノの音をランダムに1音聞かせると正しい音名を答えられる能力で、日本の音大生の6割、ピアノ専攻の学生はほぼ全員がこの能力を持っているようです。(参考:日本の音楽学生は絶対音感が優れている)日本は世界的にみても絶対音感に優れているとされています。また絶対音感を持つ人は音をどちらかというと言語として処理しているとの調査もあります。(参考:脳は“ドレミ”を言語処理)ちなみに絶対音感にも様々なレベルがあるようで、なかには楽器に限らず壁の音や動物の鳴き声なども音名で答える人もいるようです。

相対音感ですが、これはある基準音に対して音程を答える能力で、この能力はレベルの差こそあれ、少なくとも音楽を趣味としている人は100%持っているのではないかと思います。

絶対音感を持っていることは音楽を学ぶ上で大変有利ということは間違いなく、特に耳コピにおいては有ると無いでは作業のスピードが倍以上違うと思います。しかし、やはりこれは絶対条件ではありません。皆様は相対音感は必ずお持ちだと思いますので、自分のペースで耳コピに励みましょう。自分の音感を確認したい方は音感トレーニングの本もありますので、利用して下さい。

補足:私が独自に実施したYouTubeの視聴者アンケートでは、絶対音感(楽器限定問わず)4割、相対音感は6割という結果でした。私は絶対音感を持っていないので正直羨ましいです。皆さん是非耳コピに励んで下さい。

題材(元ネタ)の選び方

まず自分がコピーしたい、カッコいい!と思うフレーズをコピーすることが大切です。好きなアーティストのオリジナル曲でも良いのですが、可能ならジャズスタンダード曲を選んでください。スタンダード曲はコード進行が決まっているのでフレーズのコピーをする時にスケールの予測がつきやすいこと、また分析もしやすいというメリットもあります。

コピー譜の利用

コピー譜は耳コピの補助として大変役に立ちます。有名なジャズミュージシャンの完全コピー譜は比較的入手しやすいので、利用してください。しかし譜面だけをみて弾くのは避けましょう。まずは耳でじっくりとそのフレーズを聴いて、それから採譜、そして確認の意味でコピー譜をみるのをお勧めします。私もたくさんのコピー譜を持っていますが、あくまで自分が耳コピしたものが合っているかの確認、そして苦手な和音の確認に使ってます。ちなみにおすすめはビル・エバンスのオムニブックです。関連動画でも紹介していますのでご覧下さい。

耳コピのポイント

誤解が多いのですが、耳コピは曲全体の完全コピーではありません。たったひとつのフレーズをコピーするだけでも立派な耳コピです。そしてそのコピーしたフレーズから無限にフレーズを展開していくことも可能です。焦らず、気長に、たったひとつのフレーズコピーから始めてみましょう。何よりも大切なのが、フィーリングを掴むこと。ジャズは音符の音楽ではありません。そこには息継ぎ、アクセント、間の取り方が存在します。耳コピに慣れてきたらそこに焦点を当ててみましょう。よりジャズっぽく弾く事が可能になります。

即効性を求めない

私は20年以上耳コピをしていますが、すぐに効果が出たという経験はありません。しかしジワジワと、数年前に覚えたフレーズが演奏中にパッと出てくることがあります。不思議な感覚です。皆さんも焦らず、気長に継続して下さい。必ず効果はあります。

雰囲気を真似る

まだ若かった頃の話ですが、行きつけの楽器屋さんにとてもギターの上手い店員の方がいて、お客さんがギターを欲しそうにしているとサラッと模範演奏をして購買意欲を見事に刺激していました。その店員さんと話をする機会があったので、そういうフレーズやリフはどこから学んだのか?と訊いてみました。するとその店員さんは、フレーズはレコードやラジオなどから聴いたもので、ただ、フレーズをコピーするというよりその雰囲気を真似ているだけだ、という答えが返ってきました。丸コピーではなくあくまで雰囲気を真似るだけだと。この考え方は今でも私の演奏には役立っています。

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