Let's Play Jazz

"自己表現としてのジャズ”

音楽はそれ自体が自己表現となりうるのですが、とりわけジャズは奏者が自由にインプロヴィゼーション、いわゆるアドリブ(即興)を行い楽しむ音楽のため、奏者の個性がとてもよく現れます。ジャズのアドリブ演奏はまるで話し言葉のようにリスナーの心へ届きます。時に大胆に、時に優しく。そして、その言葉に共感・共鳴できた時、本や映画をみた後の感動に似た、ある種のヒーリング(癒し)を得る事ができます。

普段気難しく寡黙で無口な奏者から大変繊細で優しいメロディがリリカル(叙情的)に奏でられる時、その人の心の裡(うち)にある大切なものを知った気がして、ジャズは本当に素晴らしい音楽だなと思うことがあります。

ジャズに夢中になる

私は学生時代にジャズに夢中になり、一般の大学生が行う遊び(旅行、ファッションなど)そっちのけでアルバイト代のほぼ全てを楽器やレコード・CD、書籍などジャズ関係に費やしていました。年中デニムに白Tという格好で自宅、外出先問わず毎日ジャズを聴いていました。就職してからもこの傾向は続きました。なぜそこまでジャズに夢中になれたのか、それはジャズを通じてある種の癒しを求めていたからだと思っています。現在、様々なヒーリング法がありますが、私はジャズを聴いたり演奏する事で自己治癒を行っていたともいえます。もちろん今でもジャズに夢中です、夢中だからこそ数十年も飽きずに趣味として続けられています。

もしジャズに少しでも興味を持たれた方は、まずジャズを沢山聴いて、夢中になってみてください。そうすれば自分がなぜジャズを演奏したいのかが分かるかもしれません。

ブルースフィーリング

ジャズはブルースが原点とされています。ブルースは歴史的には"苦悩"が根底にあります。そしてたとえどんなに平和な時代が訪れようとも、ヒトの持つブルージーな感情は消えることなく存在します。

学生時代、音楽サークルに所属してギターを弾いていたのですが、そこである学生と知り合いになりました。彼は幼少期からギターを習っており技術もあったのですが、テクニックというよりも彼の弾く音そのものがとてもブルージーでユニークでした。ブルースの曲を弾いているわけではなく、それが例えドレミの音階であっても、彼が爪弾く弦の振動は空気を優しくディープに震わせ、切なさと暖かさの混じり合った音色が1音1音リスナーの琴線に直接触れる、そんな感じでした。

それまで”ブルースフィーリング”という言葉はテキスト等で学んで知っていたのですが、それを直接耳で、肌で、心で感じたのはそれが初めてでした。同時に生まれつき備わっているもの、いわゆる天性の才能というものを目の当たりにした瞬間でした。

学年が上がるにつれて彼とは疎遠になり、その後心の病かなにかで大学をやめたような話を聞きました。それが私の知る彼の最後です。あの時感じた感動は今でも心の大切な場所にしまってあります。そして彼のようなオーガニックでピュアな、暖かいフィーリングをいつか出したいと願ってピアノに向かっています。

ジャズは欧米の特別な音楽ではなく誰もが持っている悲しみ(sorrow)、 苦しみ(suffering)、欲望(desire)、渇望(thirst)、そして優しさ(heart)を表現するための世界共通言語です。これからジャズを始める方はまずはこのブルースを学び、自分の内に眠るフィーリングに気づいて下さい。私はジャズピアノを始めた頃、まずATN出版のIntro To Blues Pianoを一通り終えました。ページ数も少なく、音符も簡単なためピアノ初心者の方にもオススメです。

自分の音を誇りに

楽器の音にはその人が表れる、といわれます。技術的には頂点を極めた世界的なクラシックピアニストが同じ楽譜を弾いても、全く異なる雰囲気で演奏されます。音に個性があるためです。そして経験上、人を惹きつける音を出す人は演奏レベルに関係なく存在します。世界で最も偉大なバイオリニストで指導者でもあるイツァーク・パールマンが以前インタビューで音の個性について「同じ場所で同じ楽器、同じ弦、同じ楽譜を弾いているのに何故それぞれ違う個性(音色)が出るのか未だに分からない」と答えていました。偉大な指導者でも分からないのですから永遠の謎なのでしょう。

皆さんも自分の音を大切にして、そしてそれを誇りにできれば演奏はもっと素晴らしいものになると思います。ジョセフレヴィーンのピアノ奏法の基礎にも音色について書かれているので参考にして下さい。

自分の言葉で

上手でも下手でも、最後は自分の言葉で伝えるのがジャズです。ひと通りの理論や基礎を学んだら、理論に囚われたり、楽譜通りに弾くのではなく是非自分で歌うということを心がけて下さい。そうすれば必ずリスナーの心に届くと思います。