ジャズを始める前に

Jazz語について

Jazz語とはジャズ特有のメロディやフレーズなどのことで、目指すレベルがどのようなものであっても、ジャズの演奏をするためには多かれ少なかれこの言語を学んでいかなければなりません。

ジャズの学習は外国語の学習とよく似ています。例えば英語学習において最も大切なのは『ある一定量の英語音声や英文を徹底的に聴いて読んで、脳に刻み込む』 こととされており、これは科学的にも証明されています。具体的には高校卒業後に2000時間の学習が必要とされています。これは週1回60分の英会話教室に通っても40年近くかかる計算になります。このペースでは英語がなかなか上達できないのは皆さんもご存知かと思います。

とにかく聴き込む

私は語学学習とジャズの学習は非常に似ているのでないかと考えています。例えば練習しているのだけどジャズっぽいメロディやフレーズ、コードが弾けない、という方に話を聞くと、ジャズはたまに聴く程度、そういえばスタバに流れているよね、というような返答が多く、ジャズの聴き込みが足りていないと感じます。

私は19歳の学生時にジャズを聴いて以来、アルバイト代のほとんど全てをジャズに注ぎ込むほど夢中になりました。当時は朝起きたらまずオーディオのスイッチを入れてジャズを聴く、通勤・通学途中にヘッドフォンでジャズ、帰宅してからジャズが流れっぱなし、という生活を少なくとも10年以上は続けていました。効果があったかどうかは別として、かなりの時間ジャズを聴いていた事に間違いはありません。

ジャズの聴き込みが足りているかどうかを判断する方法があります。例えば今この場で何らかのジャズぽいメロディを口笛なり鼻歌で歌えることができますか。この何気ない”歌う”ということが出来なければピアノであろうとギターであろうとジャズを弾くことは難しいと個人的には思っています。

とにかく弾いてみる

聴くだけで英語ベラベラ、が不可能なようにジャズも聴くだけでは弾けるようにはなりません。聴くことは最低限の基礎固めであり、演奏することはまた別の訓練が必要になります。これも不思議と言語学習と同じプロセスを辿ります。ヒトが言語を習得する過程はまず聴けるようになり、それから話せるようになる、という流れです。そして話せるようになるとより深く聴けるようにもなります。

まだジャズピアノを始めたばかりの頃、プロの方に私の演奏を聞いてもらったことがあります。演奏が終わった後に「もっとたくさんジャズのレコードを聴いてコピーした方がよい」とだけ言われました。自分ではたくさん聞いてきたつもりだったのですが、実際に弾くという作業が疎かだったのです。それ以来ジャズを聴くだけではなく、もっと真剣に分析して自分で真似て練習するようになりました。

感動しよう

このサイトをご覧になっているということは、何かきっかけがあったのではないかと思います。そのきっかけは恐らく多かれ少なかれジャズの言葉に感動したことではないでしょうか。感動は強烈なモチベーションになります。感動とまでいかなくてもカッコイイ、雰囲気が好き、でも良いと思います。そしてそのモチベーションを維持するために常にジャズを貴方の伴侶としていつも持ち歩きましょう。そしてジャズを貴方の心と身体の一部として受け入れましょう。ジャズは欧米の特別な音楽ではなく誰もが持っている悲しみ(sorrow)、 苦しみ(suffering)、欲望(desire)、渇望(thirst)、そして優しさ(heart)を表現するための世界共通言語です。恐れずにこれらを受け入れましょう。

ブルースフィーリングを身につけよう

ブルースはほぼ全てのジャンルの音楽に影響を与えている音楽形態です。ジャズも例外ではありません。何故奴隷制から生まれた哀歌であるブルースがこれほどの影響力を持つに至ったのかについて、やはりヒトは不完全であり、誰もがある種のブルースを心に秘めていることが関係していると思います。

ここで少しだけ、学生時代に出会ったギタリスト(同じ学生)について書きたいと思います。今でも記憶に残っているのですが、彼の弾く音は全てがブルースフィーリングの塊でした。ブルースの曲やブルースのスケールを弾いていない時でも、それが例えドレミファソラシドであっても、何故か彼が弾くと弦から生み出される空気の振動が時にディープに、時にリスナーの鼓動にシンクロナイズしているような、そんな切なさと暖かさがありました。彼の真似をして私もブルースフィーリングを出したいと練習していたのですが、どうしても上手くいきません。彼は紙袋に包まれたウィスキーのミニボトルを汚いジーンズの後ろポケットに入れてるような学生でしたが、”生まれつきの才能”というものを肌で感じたのはそれが初めてでした。学年が上がるにつれて就職活動などで忙しく彼とは疎遠になり、その後心の病で休学か中退したような話を耳にしたのが私の知る彼の最後です。今でもピアノを演奏する時には彼のようなオーガニックでピュアな、そして暖かいフィーリングを出したいといつも願っています。

これからジャズを始める方はまずはこのブルースを学び、この泥臭いフィーリングを身につけることをお勧めします。私はジャズピアノを始める前にATN出版のIntro To Blues Pianoを一通り終えました。ページ数も少なく、また音符も簡単なためピアノ初心者の方にもオススメです。

自分の音を見つけよう

楽器の音にはその人が表れる、といわれます。技術的には頂点を極めた世界的なクラシックピアニストが同じ楽譜を弾いても、全く異なる雰囲気、つまり音に個性が出るようです。そして経験上、人を惹きつける音を出す人は演奏レベルに関係なく存在します。世界で最も偉大なバイオリニストで指導者でもあるイツァーク・パールマンが以前インタビューで音の個性について「同じ場所で同じ楽器、同じ弦、同じ楽譜を弾いているのに何故それぞれ違う個性(音色)が出るのか未だに分からない」と答えていました。偉大な指導者でも分からないのですから永遠の謎なのでしょう。皆さんも自分の音を大切にして、そしてそれを誇りにできれば音楽はもっと素晴らしいものになると思います。ジョセフレヴィーンのピアノ奏法の基礎にも音色について書かれているので参考にして下さい。

最後は自分の言葉で

上手でも下手でも、最後は自分の言葉で伝えるのがアドリブです。ひと通りの理論や基礎を学んだら、理論に囚われたり、楽譜通りに弾くのではなく是非自分で歌うということを心がけて下さい。そうすれば必ずリスナーの心に届くと思います。