私がジャズを好きな理由
"自己表現としてのジャズ”
皆様と同じように私も音楽が大好きで、小さい頃から様々なミュージックを聴いてきました。当時はインターネットも何もなかった時代ですので情報源はもっぱらレコード店の店主のチョイスという、ある意味で嗜好に偏りがあったわけですが、それでもあらゆるジャンルの音楽を丁寧に大切に聴くことができました。
ただ、これほどのめり込んでいる今となっては不思議なのですが、ジャズという音楽に触れたのは大学に入ってからで、それまでジャズの存在すら意識したことはありませんでした。そしてジャズと出会ったのもアルバイトしていたバーのマスターが偶然ジャズギタリストだったからで、やはり出会いというのは不思議なものです。
地方出身者の私にとって慣れない都会生活と大学生活は刺激的であると同時に苦痛を伴うものでした。もともと社交的とは言い難い性格で、友達もほとんどいなかった私にとって、奏者が自由にインプロヴィゼーション(アドリブ、即興)を行い、まるで会話をしているかのように楽しむジャズは魅力的で、これなら自己表現ができるのではないか、と思いました。
事実、ジャズのアドリブには奏者の個性がとてもよく現れます。それはまるで話し言葉のようにリスナーの心へ届きます。時に大胆に、時に優しく。そして、その言葉に共感・共鳴できた時、本や映画をみた後の感動に似た、ある種のヒーリング(癒し)を得る事ができます。
普段気難しく寡黙で無口な奏者から繊細で優しいメロディがリリカル(叙情的)に奏でられる時、その人の心の裡(うち)に秘めた大切なものを知った気がして、ジャズは本当に素晴らしい音楽だなと思い、自分もいつか自己表現の手段としてジャズを奏でるようになりたいと思うようになりました。
ジャズに夢中になる
私は学生時代を通じてジャズに夢中になり、一般の大学生が行う遊び(旅行、ファッションなど)そっちのけでアルバイト代のほぼ全てを楽器やレコード・CD、書籍などジャズ関係に費やしていました。年中デニムに白Tという格好で自宅、外出先問わず毎日ジャズを聴いていました。就職してからもこの傾向は続きました。なぜそこまでジャズに夢中になれたのか、それは上述したように、ジャズを通じてある種の癒しをそこに求めていたからではないかと思っています。現在、様々なヒーリング法がありますが、私はジャズを聴いたり演奏する事で自己治癒を行っていたともいえます。その傾向は今でももちろん、変わっていません。
ある出会いと別れ
学生時代、私は音楽サークルに所属していました。そしてそこである学生と知り合いになりました。彼は幼少期からギターを習っていたので私と比べ遥かに上手だったのですが、テクニックというよりも彼の弾く音そのものがとてもユニークで、それは単純なドレミの音階であっても彼が弾くと、弦の振動が空気をディープに優しく震わせ、切なさと暖かさの混じり合った音色が1音1音虹色の輝きを持った雨粒のように心の琴線に直接触れてくるような、そんな感じでした。
それはまさしく”ブルースフィーリング”でした。ブルースは歴史的には"苦悩"が根底にあり、ジャズはブルースが原点とされています。そしてたとえどんなに平穏が訪れようとも、ヒトの持つブルージーな感情は消えることなく常に存在します。言葉でしか知らなかった”ブルースフィーリング”を直接耳で、肌で、心で感じたのはそれが初めてで、それと同時に生まれつき備わっているもの、努力だけでは手にすることのできない天性の才能というものを目の当たりにした瞬間でもありました。
学年が上がるにつれて彼は次第に姿をみせなくなりました。その後心の病かなにかで大学をやめたような話を聞きました。それが私の知る彼の最後ですが、あの時感じた感動は今でも心の大切な場所にしまってあります。そしていつか、彼のようなオーガニックでピュアな暖かいフィーリングを音で出したいと願っています。
ジャズは欧米の特別な音楽ではなく誰もが持っている悲しみ(sorrow)、 苦しみ(suffering)、欲望(desire)、渇望(thirst)、そして優しさ(heart)を表現するための世界共通言語です。これからジャズを始める方はまずはこのブルースを学び、自分の内に眠るフィーリングに気づいて下さい。私はジャズピアノを始めた頃、まずATN出版のIntro To Blues Pianoを一通り終えました。ページ数も少なく、音符も簡単なためピアノ初心者の方にもお勧めです。
自分の音を誇りに
楽器の音にはその人が表れる、といわれます。技術的には頂点を極めた世界的なクラシックピアニストが同じ楽譜を弾いても、全く異なる雰囲気で演奏されます。音に個性があるためです。そして経験上、人を惹きつける音を出す人は演奏レベルに関係なく存在します。世界で最も偉大なバイオリニストで指導者でもあるイツァーク・パールマンが以前インタビューで音の個性について「同じ場所で同じ楽器、同じ弦、同じ楽譜を弾いているのに何故それぞれ違う個性(音色)が出るのか未だに分からない」と答えていました。偉大な指導者でも分からないのですから永遠の謎なのでしょう。
皆さんも自分の音を大切にして、そしてそれを誇りにできれば演奏はもっと素晴らしいものになると思います。ジョセフレヴィーンのピアノ奏法の基礎にも音色について書かれているので参考にして下さい。
自分の言葉で
上手でも下手でも、最後は自分の言葉で伝えるのがジャズです。ひと通りの理論や基礎を学んだら、理論に囚われたり、楽譜通りに弾くのではなく是非自分で歌うということを心がけて下さい。そうすれば必ずリスナーの心に届くと思います。
さて、新しい世界のはじまりです!
ここまでお読みになっていただきありがとうございました。少しでも私の好きなジャズに興味を持たれた方はぜひ一緒に練習しましょう。そして一生の趣味にして毎日充実して過ごしましょう!さあ、新しい世界が始まります!
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